ほんの少しいいことが起きるまでに、あとどのくらい待たなければならないのだろう?
こうした絶望的な状況に、まだあとどれほど耐えなければならないのだろう?
わたしは自分の行く先に、なにかいいことが待っているに違いないと信じていた。
その希望をつなぎながら、がんばってきたのだ。
なにかすばらしいチャンスが訪れることは確信していたから、毎日、自分に問いかけていた。
チャンスはいつ訪れるのだろう?
今日だろうか、明日だろうか?
どこへ行ったら、チャンスに出会えるのかしら?
なにをしたら、いいのかしら?
ワリス・ディリー―
ワリスは、アフリカ大陸の東端に位置するソマリアで、砂漠を移動しながら暮らす遊牧民の一家に生まれる。
幼い頃から、数十頭の山羊や羊の群れを任され、水場につれて行ったり、乳搾りしたりして、家族を助けてきた。
5歳のとき、割礼を受けさせられる。
ソマリアでは割礼を施さない女は結婚できない。
ソマリアでは、女の子は二本の脚のあいだに悪いものをつけて生まれてくると言われている。
それらは不浄だから、取り除かなければならない。
取りのぞくべきものは、クリトリス、小陰部、それに大陰部の大部分だ。
それらを切り取ったあとは、糸で固く縫ってしまうから、性器のあったところには傷口が残るだけになる。
だが、そうした具体的な割礼の内容は、少女たちには知らされない。
だから、ソマリアの少女たちは、女になる通過点として、楽しみにしていた。
ワリスもまた、その日を待ち望んでいた。
早朝、ワリス低木の茂みの中に連れていかれる。
ジプシーの老婆は、欠けたカミソリの刃を取り出し、それに唾を吐き、それをドレスでこする。
そして、切れ味のよくないカミソリが、のこぎりでも引くように、肉を切り取っていく。
ワリスは激烈な痛みを感じる。
脚が震え出し、失神した。
ジプシーはアカシアの木の刺(とげ)で、皮膚に穴を開けはじめる。
それから、白い糸をそこに通す。
母と姉が来て、木陰に引きずっていく。
その木陰に2人は簡単な小屋を組み立てた。
傷が治るまでの2、3週間小屋に隔離されれた。
排尿のたびに激痛が走った。
何日か小屋で寝ているうちに、傷口が化膿した。
高熱が出て、意識が朦朧とする。
傷口が癒えるまで1ヶ月以上要した。
アフリカでは少なくとも28カ国、オーストラリア、ニュージーランド、
カナダ、ヨーロッパ、アジア、中近東のアメリカ系移民の間でも行われている。
アフリカだけでも、現在、1億3千万以上の女性たちが割礼を受けている。
毎年約2百万人、毎日約6千人の少女たちが、この慣習を受けている。
ワリスは幸運なほうである。
性器を切除された結果、出血多量やショック、感染症、破傷風などで死んでしまう女の子も多い。
無事に生き残っているほうがはるかに不思議なのである。
生き残ったとしても、元気な体ではいられない。
女性たちはさまざまな後遺症に苦しむ。
排尿困難、月経困難、泌尿器の炎症、精神障害などを背負わされる。
一生痛みに耐えながら暮らすことになる。
ワリスもまた、ロンドンで縫合部分を開ける手術を受けるまで、苦しみ続けた。
排尿・月経による激痛に何度も気絶した。
精神的苦痛は、生涯続く。
ワリスは13歳になったとき、60歳をすぎた老人との結婚が決められる。
花嫁の代償はラクダ5頭。
それに背けば殴られ蹴られるなどの暴力を受ける。
女は一家を安泰させるための道具、労働力にしかすぎない。
割礼も娘を結婚市場で高く売るための、身勝手な男たちが作り出した悪しき習慣なのだ。
ワリスは、母の力を借りて、逃げ出した。
ソマリアの首都モガディシュに住んでいる母の妹のところを目指す。
裸足のまま、大きなスカーフを1枚、体に巻きつけて、砂漠の闇に向かって駆け出した。
何日も走り続けた。足からは血が流れ、空腹と渇きと痛みを感じる。
ライオンに遭遇し、ラクダの飼い主にはムチで打たれ、男たちに襲われかけた。
やっとの思いで、モガディシュに到着する。
父から連れ戻されないように、親戚を転々とした。
子守り、炊事洗濯なんでもした。
ワリスは、母のことが気がかりでならなかった。
自分が居なくなってから、母の労働は増えるばかりだろう。
母を助けたかった。
ワリスは、建設現場で働き始めた。過酷な労働だった。
1ヶ月間、頑張りぬいた。そして、60ドル相当のお金を稼いだ。
そして、送金する。
数ヵ月後、ワリスが叔母の家で掃除をしていると、駐英ソマリア大使がやってきた。
彼は、母の妹の夫である。
イギリスでの4年間の任期のあいだ、ロンドンの家で働いてくれるメイドを探すために、モガディシュに訪れていた。
即座にこれだと思った。待ち続けていたチャンスだ。
何をどうすればいいのか、全然わからなかった。
それでも、ワリスはメイドになりたいと懇願する。
ワリスは、ロンドンに向かう。
彼女は、ただの1日の休みもなく、メイドとして4年間働いた。
ロンドンに住みはじめて2年がたった頃、大使の幼い娘を学校まで送り迎えするという仕事が加わる。
そんなある日、髪をポニーテールにしている40歳くらいの白人の男が話しかけてくる。
英語だったから、何を言われたのかわからなかった。
同じことが繰り返される。
その男は叔母のところへやってきて、ワリスの写真をとりたいと持ちかけたが、話は流れた。
それ以来、話しかけてこなくなったが、いきなり近づいてきて名刺を差し出した。
ワリスは、ポルノ写真に違いないと不快感を示したが、その名刺をポケットにしまう。
4年間の駐英ソマリア大使の任期が終わり、故国に帰ることになった。
母に家を建ててあげたい、家があれば、母はもうあんな重労働をしなくてもいい。
年中移動してまわる必要もない。
通貨価値の違いを考えれば、ソマリアでは数千ドルもあれば家が買える。
この夢をかなえようと思ったら、イギリスにいたかった。
帰国の日、ワリスはパスポートを失くしたと嘘をつく。
仕事も、就労許可もない。
英語も話せない、読めない、書けない。
なんの当てもない。
それでも、イギリスに残った。
メイドの給金で貯めた僅かなお金で、しばらくは暮らさなければならない。
ロンドンで暮らすためにそれなりの洋服も必要だろうと思いデパートに向かう。
そこで、ソマリア人と思われる女性を見かけ、ソマリ語で話しかけてみた。
そして、自分の事情を話した。
彼女の紹介で、YMCAに部屋を借り、暮らしはじめた。
隣にあるマクドナルドの皿洗いと台所掃除の仕事にありつく。
外国人のための、無料語学教室にも通いはじめる。
ある午後、マクドナルドの仕事を終え、表側の出入り口から出ていこうとしていたとき、あのポニーテールの男と出くわす。
少し話をしただけで別れた。
気になり、名刺の連絡先に電話をかけ、翌日、彼のスタジオを訪ねる。
彼はワリスの横顔を撮りたくて、2年間もワリスを追いかけていたのだ。
写真を撮ってから、2ヶ月後、彼の写真集を見たモデル・エージェンシーからのオファーがあり、プルリのカレンダーのオーデションを受けた。
採用される。
カメラマンは、ダイアナ妃、王族、ヴォーグやエルなどの写真を撮っているテレンス・ドノヴァン。
ワリスの写真が表紙に決まる。
その後、ワリスは、007シリーズのボンドガールに選ばれる。
だが、モデルの仕事は、突然、なくなってしまう。
マクドナルドの仕事は辞めていた。
ロンドンでは黒人モデルの仕事は少なく、自立できるほどの収入は得られない。
ニューヨークから新人を探しにきたというエージェントに会う。
ニューヨークはモデルにとっては最大の市場で、特に黒人モデルの仕事はたくさんあるので、来ないかという。
ワリスのビザは切れ、不法就労者にすぎない。
パスポートを作ることができない。
彼女は、友人の兄と偽装結婚をした。
1年後、ワリスは1人でアメリカに渡った。
ワリスは、スターダムを駆け上がり、「スーパーモデル」という存在になっていく。
シンディ・クロフォード、ナオミ・キャンベル、クローディア・シファー、ローレン・ハットンとも仕事をした。
エル、ヴォーグにも頻繁に登場するようになる。
ミラノ、パリ、ロンドン、ニューヨークとショーに立った。
一流の人たちに囲まれた。
ワリスの成功への道のりが、BBCのドキュメンタリー番組で制作される。
ニューヨークのジャズバーで、最愛の夫となるデイナと出会う。
それまでのワリスは、割礼が原因となり、恋ができなかった。
自分の秘密を知られるのが怖かった。
自分の恐ろしい姿を見せるのが怖かった。
傷つきたくなかった。
だから、男の人が、彼女に関心をもったのがわかると、すぐに逃げ出した。
そんなワリスが、生まれてはじめて男の人を手に入れたいと思った。
理由はわからないが、デイナのことはずっと昔から知っているような気がした。
6ヶ月後、結婚しようと決めた。一年後、妊娠する。
そして、息子アレエケを出産。
イギリスに住む形式上の夫が、ワリスとの離婚を認めないため、デイリとは形式的には夫婦にはなれなかったが、公私ともに幸せを手に入れる。
≪これまでわたし人生は、いつもまったくの偶然から、さまざまに展開してきた。
まったくの偶然?いや、本当は偶然ではないのだろう。
人生には偶然以上のなにかがあるはずだから。
昔、家を飛び出したとき、神は砂漠でわたしをライオンから救った。
そのときわたしは、神にはわたしをいかしておく理由があるのだろう
と思った。
そして理由があるなら、それはなんだろうと思った。≫
<マリー・クレー>誌のインタビューで、女子割礼の話をした。
このインタビューは「女子割礼の悲劇」と題され、雑誌に掲載されるや大反響を呼ぶ。
さまざまな団体から講演要請がきた。
テレビの特別番組がつくられ、ワリスは国連の特別大使に任命される。
いまはモデルの仕事を続けながら、FGM(女性性器切除)の廃絶に向けて活動している。
「砂漠の女ディリー」
ワリス ディリー (著),武者 圭子(翻訳)
単行本 (1999/10) 草思社
「ディリー、砂漠に帰る」
ワリス デリィー (著), 武者 圭子 (翻訳)
単行本 (2003/11/26) 草思社
ワリスは、一歩一歩、懸命に生きてきた。
どんなときも、明るく前向きだった。
逆境におかれても、自分を信じて頑張り続けた。
試練があっても、屈せず明日になればきっと道は開けるからと、
自分に言い聞かせて生きてきた。
運命を呪ったり、悲しみにうつむいていたら、
幸運は掴めなかったと思う。
おそらく幸運どころかチャンスの到来さえ気づかなかっただろう。
チャンスの到来を信じている人だけが、チャンスを掴むことができる。
そして、自分を信じている人だけが、そのチャンスを生かすことができる。
そして、次のチャンスを呼び寄せることができる。
少なくとも、るるは、そう信じている。
応援GO!GO!
ときどき遊びに来ますね☆
『砂漠の女ディリー』の原書"DESERT FLOWER"の感想もアップしています。お暇なときにでもまた、遊びにいらしてくださいね。
http://tektek03.seesaa.net/article/2249511.html
FGMの問題は日本でははまだあまり知られていないみたいなのでどんどんこの話が広がることを願ってます(^^)
日本にいて、何ができるかと言うととりあえずは多くの人に知ってもらうよう告知することかなと思います。
どんなに根強い風習でも、女性だけが意味の無い苦痛を強いられている状況を、なくしてあげたいと思います。
昨年、マサイマラを訪ねました。
そこで女性割礼に話を聞きました。
昨夜、TV番組でワリスのことを知りました。
ソマリアとマサイは同じような現状だと思いました。
ブログにて「アフリカ日記」を掲載中です。
ぜひ、危険な女性割礼廃止のこともこれから紹介したいと思います。
一日も早く、廃止されることを切に願います。
HPの「おしゃべりBBS」の方に、ワリスのことを紹介しました。
日記の方にも載せたいと思います。
るるさまのこのページを紹介させて頂きました。
事後承諾で申し訳ありません。
これからも時々、遊びに来させていただきます。よろしくお願いします。
…本当に私はいままのままでいいの?
私は役者で、CMや舞台にでています。いつかは第一線で活躍できるようにと何年もがんばっている最中です。
でも、本当にそれでいいのか??
って考えました。
何の苦労もしていなく、死と向きあったこともなく、私は精一杯生きているんだろうか。
なんか悲しくなりました。
三条えみ
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